はじめに
「血がつながっていても、親の責任を果たさなかった人に遺産を渡しても良いのか?」
そんな問いかけが、韓国全土で議論されました。
そのきっかけとなったのが、K-POPアイドル「ク・ハラ」さんの死と、その後に起きた遺産相続をめぐる出来事です。
本記事では、「ク・ハラ法(구하라법)」と呼ばれる法律が生まれた背景にある、ク・ハラさんの人生、家族の想い、そして韓国社会の変化について詳しくご紹介します。
ク・ハラさんとは?〜華やかさと孤独の狭間で〜
ク・ハラさんは、1991年1月3日、韓国・光州で生まれました。
2008年にKARAのメンバーとしてデビューし、グループは日本でも大人気を博しました。
彼女は、甘いビジュアルとキュートな歌声で「天使のよう」とファンから愛され、韓国・日本・中国などアジア全体で知名度を誇りました。
しかし、その華やかな舞台の裏では、過酷な私生活と孤独な戦いがあったのです。
幼少期に母親が失踪〜兄と祖母の手で育てられた少女〜
ハラさんは9歳の時に実母が突然家を出ていきました。
その後、父親も家庭を十分に支えることができず、兄のホインさんと祖母が彼女の面倒を見て育ててきたといわれています。
芸能界に入ってからも、「家庭に甘える場所はなかった」と周囲に漏らしていたこともありました。
公には語らないけれど、心の奥にはずっと親の不在による寂しさや痛みがあったのかもしれません。
公私に渡る苦悩〜元恋人とのトラブルとSNSでの発信〜
2018年には、元恋人によるリベンジポルノ未遂事件で大きな注目を集めました。
それは、ただのスキャンダルではなく、女性としての尊厳を深く傷つけられた事件でした。
SNSでは心の葛藤を綴りながらも、「強く生きたい」「自分らしくいたい」と訴え続けていたハラさん。
でも、その発信の裏には、誰にも癒せない深い孤独やプレッシャーがあったのでしょう。
2019年11月24日、彼女は自宅で亡くなっているのが発見されました。
享年28歳でした。
遺産をめぐる衝撃〜育てていない母の相続請求〜
驚きだったのは、20年以上音信不通だった実母が突然現れ、ク・ハラさんの遺産の50%を請求したことです。
「一度も育てなかったのに、財産だけもらうのはおかしい」
誰もがそう思ったことでしょう。
そして立ち上がったのが、兄のク・ホインさんです。
彼はハラさんの思いと生涯を守るため、国会に立法請願を提出。
社会に「真の親子とは何か」を問いかけたのです。
ク・ハラ法の成立へ〜兄の愛が国を動かした〜
兄ホインさんの訴えは韓国中に波紋を広げ、政治家・法律家・市民の多くが賛同しました。
ク・ハラ法は、養育を放棄した親に対して、相続権を制限・剥奪できるようにする民法改正です。
主な内容:
- 子どもへの虐待・放棄・扶養義務違反があった場合、相続権を制限できる
- 裁判所の判断により、相続人の除外が可能に
- 相続だけでなく、年金や保険金の請求にも影響を与える可能性
この法案は何度か廃案となりながらも、2024年に第22代韓国国会で満場一致に近い形で可決されました。
そして2026年1月から施行される予定です。
ク・ハラ法がもたらす希望
この法改正は、一人の芸能人の死をきっかけに、社会全体が「親の責任」や「家族の絆」の意味を考え直す契機となりました。
今後は、同じように苦しんでいる子どもたちや家族が、不当な相続や支援金の請求から守られるようになるでしょう。
「家族って、血のつながりだけじゃない。
どれだけ向き合ってきたか、どれだけ愛を注いだかが大切なんだ」
そんなあたりまえだけど、見過ごされてきた真実が、ようやく法律になったのです。
おわりに 〜 ハラさんの遺志を、未来へ 〜
ク・ハラさんは、笑顔の裏でたくさんの涙を流していたかもしれません。
けれど彼女の人生は、悲劇だけで終わりませんでした。
彼女の生き様は、兄の行動を通じて法律を動かし、これからの子どもたちや家族を守る大きな力になりました。
「愛をくれなかった人に、愛の結果だけ渡さない」
ク・ハラ法は、そんな正義と想いが詰まった、人間らしい法律です。
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